篁青二郎


相変わらず、雨柳堂と百鬼夜行抄を読んでます。繰り返し。

特に雨柳堂。


近作は、篁青二郎の話がなくなってしまって、少し物足りない。





これは、微かな花、という青二郎譚本筋からは外れた、外伝風の佳話。

例の如く身分を偽って、日本画家の外弟子として師匠宅に出入りする、青二郎。

同じく絵描きを志す、師匠の娘との微妙なやり取りが楽しい。



あなたはいつも、最後のところで本気を出さないのだわ、とお嬢さんになじられる青二郎。

あなたほどの才があれば、絵で身をたてることなどたやすいでしょうに、もどかしい。

私だったら家業なんか放り出して、絵に打ちこむわ。


お嬢さん、大切なものは人それぞれです。皆があなたと同じだというわけじゃない。


なぜあなたのような人に、才能があったりするのかしら。くやしいわ。








それに対し、お嬢さんが密かに思いを寄せる、元画家志望の久馬先生に、

先生、やはり家業など放り出して、絵に打ちこまれるべきでしたよ。

と、お嬢さんの眼の前で揶揄し、足を踏んづけられる青二郎。


このあたりの軽妙洒脱なやり取りは、波津彬子が得意とするイギリスもののエスプリ、は変か、ウィット、ユーモアというべきセンスを感じます。



私はこの、お嬢さんの気持ちが良く分かります。
なんでこんな人に才能があるのだろう。
誰しも一度は、思ったことありませんか?

何かに打ちこんで、期待したような成果が得られず、焦りを感じたときに、同輩や後輩がスイスイ進歩し、受賞したりする。


私は凡人なので、才を持てる人を羨む気持ちは、痛いほど分かる。

でも青二郎にしてみれば、そんな価値観にはなじめず、韜晦の道を歩む。



一芸に精進して挫折した者のメンタルを、さらりと描いてイヤな後味を残さない。

この感覚は、雨柳堂文庫版の多くの解説者が語るように、確かに波津彬子の才芸のひとつの極みでしょう。

なので、青二郎の義理の兄の苦悩も、染み入るほどわかります。

それで、ついつい読んでしまうのですね。


持てる者と、持たざる者。

その両様の苦悩を描き、その愛憎もさらりと幽明の奥に沈めてしまう本作、特に青二郎譚は、何度でも読み返したくなる、年代物の醸造物のような、味わい深い、滋味に満ちています。



(^_^)☆



しおり
記事一覧を見る

sabの人気記事

  • 婦人倶楽部
    投稿日時:2021-08-19 16:58:55
  • 最近の麺とパン
    投稿日時:2021-09-24 12:18:51
  • オープンで墓参り
    投稿日時:2021-09-25 21:44:01

おすすめトピックス

カテゴリーランキング

趣味全般カテゴリーの人気記事ランキング

ピックアップブログ
新着おすすめブログ