悲壮

物音一つしない静寂の中で一人ぽつん。
何も浮かんでこない。
意欲もわかないし、アイディアなんかかけらも。
というより意欲がないからアイディアもおもしろい作り話も何も思いつかない。
考えることは現実ばかり。
自分がちっぽけな人間であることはとっくの昔から知っているんだけど、ますますちっぽけ、からっぽになったみたいで人生ってこうやって、だんだん役立たずになっていって、どんどんこじんまりになっていって終わるんだなとかネガテイブこの上ない。

私の呼吸を止めないようにとか、できるだけ心臓をリズミカルにとか、居心地よくしてあげようとか、なんかそういうのが申し訳ないけれど、余計なお世話のような気がしてきて、才能のない芥川が三十路を過ぎてようやく自分の無能に気が付いて、生きていることが恥だって思うようになって死ぬ勇気だけが欲しいとかぬかし始めた、あの頃のあれがわかるような気がしてきた。
シューベルトになりたいのに。

芥川のちょうど100年前に病死したシューベルトは龍之介とはちょっと違う。
自分の才能に自信を持ったことも自信をなくしたこともなかった。
自分に作曲の才能があるのかどうかなんて、たぶん考えたことすらなかったんだと思う。
ひたすら創作が楽しくて、みんながいい曲だって褒めてくれて一緒に演奏してくれるのが、ただ嬉しかった。
気のいい善人で、みんなから好かれて、なのに性病をこじらせて亡くなった、その死に方が彼のイメージっぽくなくて、ぽくないからへそ曲がりな私はそれで彼が好きになった。

もしシューベルトが芥川と同じだけ、あと4年生きていたら交響曲は12番まであったし、第8番は未完成なのか完成なのか、はっきり語ってから死んだのに。
残念でならない。
本気で私の意味のない、取るに足りない31からの数十年をシューベルトに差し上げたい。

ブラームスもバルトーク、ヘンデル、モーツァルト全部聴き飽きた。
入院前に大量に用意した山崎もショーロホフも大好きな原平さんも桐野夏生も、そこに積んであるけど、この一週間は、たぶん人生で初めて本を読む気になれなかった。
静寂の中、見慣れた天井の薄明るい白色光。
こいつをぼんやり眺めながら起こり得る現実の、いくらも手筋のない未来のアルゴリズムをしらみ潰しに考える。

なんだ結局そんなもんか。
やっぱり、手詰まり。
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