ハームキヤ(23)




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花巻市内の宮沢賢治関係箇所




 宮沢賢治は詩や童話の中で、花巻を「ハーナムキヤ」「ハームキヤ」「ハームキャ」「ヒームキヤ」などと呼んでいました。






見せ物と映画






「山の神の秋の祭りの晩でした。

 亮二はあたらしい水色のしごきをしめて、それに十五銭もらって、お旅屋にでかけました。『空気獣』という見世物が大繁盛でした。

      
〔…〕

 亮二も急いでそこをはなれました。その辺一ぱいにならんだ屋台の青い苹果や葡萄が、アセチレンのあかりできらきら光っていました。

      
〔…〕

 向うの神楽殿には、ぼんやり五つばかりの提灯がついて、これからおかぐらがはじまるところらしく、てびらがねだけしずかに鳴っておりました。
〔…〕

 そしたら向うのひのきの陰の暗い掛茶屋の方で、なにか大きな声がして、みんながそっちへ走って行きました。亮二も急いでかけて行って、みんなの横からのぞき込みました。するとさっきの大きな男が、髪をもじゃもじゃして、しきりに村の若い者にいじめられているのでした。額から汗を流してなんべんも頭を下げていました。

      
〔…〕

 『た、た、た、薪
(たきぎ)百把持って来てやるがら』

 掛茶屋の主人は、耳が少し悪いとみえて、それをよく聞きとりかねて、かえって大声で言いました。

 『何だと。たった二串だと。あたりまえさ。団子の二串やそこら、くれてやってもいいのだが、おれはどうもきさまの物言いが気に食わないのでな。やい。何つうつらだ。こら、貴
〔き〕さん』

 男は汗を拭きながら、やっと又言いました。

 『薪をあとで百把持って来てやっから、許してくれろ』

 すると若者が怒ってしまいました。

 『うそをつけ、この野郎。どこの国に、団子二串に薪百把払うやづがあっか。全体きさんどこのやつだ』

 『そ、そ、そ、そ、そいつはとても言われない。許してくれろ』男は黄金
(きん)色の眼をぱちぱちさせて、汗をふきふき言いました。一緒に涙もふいたようでした。

 『ぶん撲れ、ぶん撲れ』誰
(たれ)かが叫びました。」
宮沢賢治『祭の晩』より。
(原文は旧仮名遣い) 







「朝日座」跡

御旅屋の向かい正面、現在の
ホテル花城(赤い建物)隣り
の空き地のあたりに
あったようです。



 「朝日座」は、当時の芝居小屋で、旅回りの一座が来て興行をする場所でしたが、年に何度かは活動写真の興行をしていました。当時花巻には、朝日座のような臨時の活動写真館が3つあったそうです。賢治は、活動写真の興行が来ると、おそらく父には内緒で、ここに見に来ていました。



「私がまだ4歳くらいで明治40年のころのことです。はじめて兄と一緒に活動写真を見に行ったのは、花巻の朝日座という芝居小屋でした。

 そこで、生まれてから初めて舞台に張られた白い幕の上に見たものと、どこからか湧き出して来る不思議な音に私はすっかり憑かれてしまったのでした。

      
〔…〕

 田舎町にそのころ興行のために持ってきたフィルムは、当時はなかなかの貴重品で、一晩の興行には時間があまるので、一度映したものをまた繰り返して見せたり、フィルムを襷
(たすき)のようにつなぎ合わせて、何回もぐるぐるまわして見せるので、同じ場所が何回も出てくる〔…〕

 私たちにとってもまた兄の賢治にとっても、一年の間に何回かしか見られず、この変な匂いの朝日座という小屋で、摺り切れかかった映画を繰り返して見せられることが、どれほど楽しく貴重な時間であったかを、今の若い人たちにわかって貰うことは容易のことではないと思うのです。

        *

 当時の花巻町の氏神、鳥谷ヶ崎神社の秋の三日間の祭りには、朝日座の前のお旅屋が人出の中心となっていました。この一年に一度のお祭りには、たくさんの山車が神輿さんの前を笛や太鼓や三味線で先導し、後の方には鹿おどりや剣舞がお供をして町内をねり歩いて、最後に朝日座前のお旅屋におみこしが鎮座するのです。

      
〔…〕

 見世物の中心は毎年サーカスか動物園で、
〔…〕大正のころになってから、サーカスと競って人気のあったのが、まだ珍しかった活動写真で、それが毎年朝日座にかかったのでした。

 ところが朝日座に田舎周りの芝居などがかかったときは、
〔映画のほうは御旅屋の露天で興行した。―――ギトン注〕広場に巨きなテントの小屋がつくられて、にぎやかな楽団と大きな旗やペンキの看板が客を誘い、殊に露天の映写台のアセチレンの青白い光が沢山の客を集めたのでした。赤や青や色とりどりの服を着た楽師や、フロックコートに素敵なネクタイをつけた映写機をまわす技師などを見ますと、私たちも見ないでは居られなかったのですが、祭りに来た活動写真はもうフィルムが摺り切れて、何回も画面がまっくらになるようなのです。」
宮沢清六『兄のトランク』,pp.39-43.






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