ニセコ (6)




ランキングヘ







北の大地に宮沢賢治の足跡を追っていきます。






羊蹄山と有島農場
(6)





 ところで、このニセコの有島農場の解放に、宮沢賢治がどうして関わってくるのかと言うと、賢治の『春と修羅』に収録された“サハリン旅行”後の詩に、↓つぎのような一節があるからです。



 カフカズ風に帽子を折つてかぶるもの
 感官のさびしい盈虚のなかで
 貨物車輪の裏の秋の明るさ

   (ひのきのひらめく六月
    おまへが刻んだその線は
    やがてどんな重荷になつて
    おまへに男らしい償ひを強ひるかわからない)

  手宮文字です 手宮文字です


『春と修羅・第1集』より「雲とはんのき」〔1923.8.31.〕




 引用第1行の「カフカズ風」は、印刷前の賢治の原稿では「ロシア風」になっていました。当時、ロシア革命によって社会主義に突き進んでいたロシアが、また、そうした社会主義、共産主義にあこがれる人物が、そこには暗示されているのです。

 そして、「ひのきのひらめく六月」。この 1923年6月に起きた大きな事件といえば、有島武郎の心中自死でした。「おまへが刻んだその線」とは、有島が刻むべく起草して、当局に禁止された碑文を指しているようにもとれます。

 「手宮文字」は、ニセコにほど近い小樽の手宮洞窟で発見された(と当時は信じられていた)古代文字です。手宮洞窟については、このあと、小樽のところで詳しく説明するでしょう。

 有島武郎の「農場解放記念碑」と、宮沢賢治の詩を結びつけるギトンのこの思いつきは、ハッキリした手がかりがあるわけではありません。「雲とはんのき」には、賢治の親友・保阪嘉内にかかわる詩句が散見しますから、「ロシア風に帽子を‥かぶるもの」も、むしろ嘉内を指しているかもしれません。

 しかし、みずからも地主階級の一員として小作人に対して何ができるか悩み、また、中学生時代から『中央公論』の読者だった賢治が、有島の一連の行動と事件を、関心を持って眺めていたことは考えられます。最近の研究によれば、賢治童話『黒ぶどう』に登場する「ベチュラ公爵」は、有島武郎をモデルにしていると云います。(←この点は、のちほど札幌のところで、北大総長・佐藤昌介とのからみで、再度検討します。)


∇ 参考記事(『黒ぶどう』と有島武郎)⇒:
【ハームキヤ(19)】






 なお、賢治の「雲とはんのき」と、有島武郎の「農場解放記念碑」の関係については、↓こちらにも書きました。


∇ 本記事はこちら⇒:
〜ゆらぐ蜉蝣文字〜 7.11.6






 さいごに、解放された後の農場の歴史について、かんたんに触れておきましょう。

 元小作人たちの共有農場は、「有限会社狩太共生農団信用利用組合」という正式名で産業組合法に基づき 1924年7月に発足し、すべてが団員の合議制で運営されました。脱穀・精米の機械化と銘柄米としての販路開拓、乳牛の導入、肥料の共同購入など、めざましい活動が開始されたのです。

 しかし、農団の最初の 10年は、昭和初期の冷害凶作に遭遇して塗炭の苦しみを舐めたと云います。小作料は無くなったものの、水田化のための灌漑溝工事の借金を銀行に返さなければならず、その負担は軽いものではなかったからです。

 そうしたなか、農団員たちはよく結束して、自力で負債を完済しました。いま現地に行くと、有島の設けた灌漑による水田が、豊かに稔っているのを見ることができます。日本じゅうの山間部の水田がみな減反政策のために原野に返っているなかで、ここの水田が残らず耕作されているのは驚異です。

 日中戦争が拡大すると、国家総動員体制のもとで産業統制が厳しくなり、農団は、信用・販売等の部門を国の統制団体に奪われていきましたが、“食糧増産”のスローガンのもとに組合の解散を求める指導官庁に対し、農団はよく抵抗し耐えました。団結して、昭和初年の凶作の試練を乗り越えた経験が、農団員たちを結束させたのでした。

 戦後の農地改革では、GHQも、北海道および狩太村の各農地委員会も、狩太農団は、戦前すでに農地改革が行われたものと認定していました。いやそれどころか、新聞とラジオは、農地改革こそは有島の理想を実現するものだと宣伝し、農地改革の"先駆"として有島の農地解放と狩太農団が紹介されたことも、一度や二度ではなかったのです。

 ところが、日本の政府は 1948年に突如として“第2次農地改革”として農団の解散を命じました。おそらく、東西冷戦開始の世界情勢のもとで、農地を共有する相互扶助の形態は、アメリカにシッポを振りたい日本の官僚たちには、気に入らなかったのでしょう。

 こうして翌年、狩太共生農団は解散したのでした。団員たちは解散に際して「有島記念館」を設け、武郎の農場解放の理想を後世に伝えることとしました。 






∇ つぎの記事⇒:小 樽 (1)

∇ ひとつ前の記事⇒:ニセコ (5)

.
しおり
記事一覧を見る

ギトンの人気記事

  • 南昌山と毒ヶ森(3)
    投稿日時:2018-11-24 23:25:02
  • 札 幌 (4)
    投稿日時:2018-11-03 18:30:03
  • ハームキヤ(17)
    投稿日時:2018-08-06 04:18:09

おすすめトピックス

カテゴリーランキング

趣味全般カテゴリーの人気記事ランキング

ピックアップブログ
新着おすすめブログ