ハームキヤ(18)




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花巻市内の宮沢賢治関係箇所




 宮沢賢治は詩や童話の中で、花巻を「ハーナムキヤ」「ハームキヤ」「ハームキャ」「ヒームキヤ」などと呼んでいました。









胡四王山と花巻鉄橋






 花巻市東郊、現在東北新幹線・新花巻駅そばにある「胡四王山」は、宮沢家の所有する山林もあったので、賢治は、山林の見回りにかこつけて、しばしばハイキングに出かけていました。現在は「宮沢賢治記念館」「宮沢賢治イーハトーブ館」「童話村」などが設けられています。

 「胡四王山」の麓にある岩手軽便鉄道(現・JR釜石線)・北上川鉄橋は、文語詩「流氷(ザエ)」の舞台ではないかと推定されます。







地図(花巻東郊)






胡四王山
と北上川
橋桁が見えるのは高速道路の橋梁。
釜石線の鉄橋はその向う側にありますが、
高速道路の影になって撮せないのが残念です。




胡四王神社 
一の鳥居

胡四王神社のいわば表参道は、
「宮沢賢治記念館」とは逆の
北側にあります。南東麓に
“宮沢賢治”施設ができたのは
ごく最近のこと、もとは矢沢集落の
側がこの山の“おもて”だったのです。




胡四王神社 
参道
こちらが“表参道”なのですが、
宮沢賢治観光の遊園地になって
しまった南東麓とは大ちがいw
こちらは深い藪に埋もれています






「私はまだそのとき、胡四王山という地名も位置も、不勉強にして知らなかった。ましてや、それが、賢治が少年時代から晩年まで、こよなく愛した山でありその麓に『賢治記念館』の設立準備が進んでいる山であるとも知らなかったのである。しかし、とにもかくにも、私は、私の小さな車に清六氏をのせて、胡四王山に向った。

 地図によれば、胡四王山は、花巻市の東、約3キロの位置にある、標高177メートルの小丘である。
〔…〕

 さて、それから30分後、私たちは胡四王の山頂に立っていた。足下に岩石が露われている。胡四王の山は、賢治がいうように、新第三紀の安山岩質集塊岩だった。

 眼下に広がる、広大な稗貫の野。そのまん中を、北上川が銀色の体をくねらせていた。その西岸に発達するみごとな洪積段丘のところどころに、第三紀の岩石から成るとおもわれる小山が散在していた。

 『あー、あれがモナドノックス(残丘)ですね』

 清六氏は、賢治が好きだった地形用語を覚えておられた。」

宮城一男『宮沢賢治との旅』,1978,津軽書房,pp.115,120.







胡四王神社 
拝殿
胡四王山頂

宮城氏が書いているように、拝殿の足もとに顔を
出している岩は、安山岩質集塊岩などです。
(赤枠内は接写)




胡四王神社 
胎内くぐり
この岩も、見てわかるように、安山岩質集塊岩です。

胡四王神社は、もとは「胡四王寺」という
天台宗の寺院で、薬師如来を本尊として
いました。修験道(山伏修行)の拠点だった
ようで、この「胎内くぐり」も、
山伏修行の場だったと考えられます。
江戸時代の 1804年に、薬師如来を大己貴命等に
変えて神社に改められました。賢治の時代には
「矢沢神社」と称しており、戦後に現在の
「胡四王神社」に改名しました。



∇ 関連記事(安山岩質集塊岩)⇒:
ハームキヤ(16) キーデンノーと立岩











北上川 
花巻大橋から
上流(北)を望む。



「   流氷
(ザエ)


 はんのきの高き梢
(うれ)より、 きらゝかに氷華をおとし、
 汽車はいまやゝにたゆたひ、  北上のあしたをわたる。

 見はるかす段丘の雪、     なめらかに川はうねりて、
 天青石
(アヅライト)まぎらふ水は、百千の流氷(ザエ)を載せたり。

 あゝきみがまなざしの涯
〔はて〕、うら青く天盤は澄み、
 もろともにあらんと云ひし、  そのまちのけぶりは遠き。

 南はも大野のはてに、     ひとひらの吹雪わたりつ、
 日は白くみなそこに燃え、   うららかに氷はすべる。」

『文語詩稿五十篇』より「流氷」〔定稿〕。



 「ザエ」は、方言で流氷のことです。岩手県だけでなく、宮城県北部でもそう言うようです。

 この詩は、賢治の文語詩の中でも完成度の高いもので、せつせつたる詩情が愛誦を誘っています。文語体で書かれていることが、少しも古さを感じさせません。むしろ口語にはない定型的なリズムが、詩の内容とみごとに調和しています。

 おそらく将来は、「永訣の朝」などに代って賢治詩の代表作となるのではないでしょうか?



 ところで、ここで考えておきたいのは、この詩に詠われた舞台です。

 作者がじっさいに体験したできごとや風景を描く“スケッチ”とは異なって、特定の時と場所ではないかもしれません。

 作者は、「きみ」と、この列車に乗り合わせているようにも読めますが、そうではないかもしれません。「あゝきみがまなざしの涯、」から「うら青く天盤は澄み、/もろともにあらんと云ひし」までが作者の回想。つまり、「きみ」は作者の回想の中にいるだけで、この列車には乗っていないとも読めるのです。

 しかし、詠われた風景を手がかりにさぐってゆくと、やはりこの場所は、鉄道が北上川を渡る特定の鉄橋のように思われてきます。



 詩の中の手がかりから、“場所”の条件を列挙してみると、↓つぎのようになります。

 @ 汽車が北上川を渡る鉄橋である。全速力で走って来た汽車は、鉄橋に差しかかる頃には、やや減速している。
 A 岸にハンノキの高木が生えている。
 B 川からやや離れて「段丘」がある。
 C 南方には広い平野が開けている。
 D 作者と「きみ」が共に生活する約束をした「そのまち」は、遥かに遠い。町の「けぶり」も見えないほど遠い。



 さらに、この詩の〔下書稿〕↓も見ると、手がかりが増えます。第3・4連は上の〔定稿〕とほとんど変らないので、第1・2連を下に出します:


 E 岸にカワヤナギが生えている。
 F Bの「段丘」は、幾層かの「岩層」が重なってできている。



「   ロマンツェロ


 かはやなぎ高き梢
(うれ)より
 きららかに氷華をおとし、
 汽車はいま穹
(そら)はるばると
 北上のあしたをわたる

 青じろきかの岩層
(むら)
 けさなべて雪にうづもれ
 なめらかにとめくる水は
 百千の流氷
(ザエ)を載せたり」
「流氷」〔下書稿〕より。






 ところで、賢治の生活圏である花巻〜盛岡周辺で、鉄道線が北上川を渡る場所は、次の2ヵ所しかないのです!

(1)山田線北上川橋梁 盛岡市夕顔瀬町 1923年開業
(2)岩手軽便鉄道(現・釜石線)花巻鉄橋 1913年開業


 ふしぎに思うかもしれませんが、東北本線(在来線)は、仙台から岩手青森県境まで、終始北上川の西岸を走っていて、一度も北上川を渡らないのです。盛岡の南に大きな鉄橋がありますが、アレは北上川ではなく雫石川にかかっています。

 (1)の山田線の鉄橋ですが、盛岡市街のはずれ(現在は市街地の中)にあって、上のBCDFの条件に反します。「そのまち」が盛岡だとすれば、山田線の鉄橋は盛岡に近すぎます。

 (2)の釜石線・北上川鉄橋(通称・花巻鉄橋)は、@からFまで、すべての条件を満たしているように思われます。「岩層」からなる「段丘」は、イギリス海岸から似内駅近くまで、河岸段丘のがけが北上川に沿って張り出しています。この区間、岩手軽便鉄道の旧軌道は、川岸の段丘上を走っていました。現在の釜石線は別ルートになっています。

 @の減速も、軽便鉄道の花巻行きは、下り勾配を全速力で走って来た後、このあたりで平野になるので、速度が落ちるのです。賢治が口語詩「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」で書いているとおりです。

 そういうわけで、「流氷(ザエ)」の舞台は、岩手軽便鉄道(釜石線)北上川鉄橋(通称・花巻鉄橋)にほぼまちがえないと思われるのです。



 以上のように考証ができたので、ギトンとしては、花巻鉄橋の写真を北上川もろとも、ぜひ撮影したいものだと思い、周辺を何度か探索したのでした。ところが、残念なことに、このあたりの北上川の両岸は、丈の高いヤブが繁っていて近づけないのです。遠くから鉄橋を撮そうにも、そばにある高速道路の橋が邪魔になって見えません。

 鉄橋に比較的近い広域農道の橋から北(盛岡方面)を撮したのが↑上の写真です。賢治が鉄橋の上から見た風景に近いはずです。

 鉄橋そのものに最大限近づいて撮ったのが↓下の2枚。残念ながら川は写っていません。







花巻鉄橋 
岩手軽便鉄道の橋脚

鉄橋は、戦後国鉄に移管して釜石線となった時に
架け替えられたようです。軽便鉄道時代の橋は
残っていませんが、橋脚と土手が残っています。
後ろに、現在の釜石線の橋げたが見えます。




花巻鉄橋 
釜石線
現在の釜石線の鉄橋





 ちなみに、賢治が「そのまち(盛岡?)」で“いっしょに暮らそう”と約束した「きみ」とは誰か? ここで議論を書く余裕はありませんが、ズバリ 保阪嘉内だと思います。






∇ 関連記事⇒:ゆらぐ蜉蝣文字
【88】冬と銀河ステーション





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