南湖と大津(3)




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琵琶湖をクジャクに喩えると、鳥の首のように
細長くなっている南端部を「南湖」と言うそうです。

大津と琵琶湖畔での
宮沢賢治の足跡をたどります。








石山寺
(いしやまでら)







石山寺 
山門





「八時宿を出で京津電車にて大津に向ふ。山科の辺を過ぐ。大石良雄に有名たり名所旧跡亦多し追分け過ぎて大津に着く。

 歩して数町三井寺に詣づ。
〔…〕

 其れより汽船にて一時間半石山に至る。途中膳所粟津瀬田を過ぐ又勝地古跡たり。石山寺に詣づ楼門を入る数町本堂あり堂宇広荘たり。側に縁結びの岩と云あり。なほ経堂宝堂鐘楼あり経堂の辺り又勝区たるを失なはず。

 元来し道を帰る。各自土産物等求む。名物に盆石石菓子と石に名付ける多し。」

(「農学科第二学年修学旅行記」「二十六日(三木敏明執筆)」, in:『校友会会報』,第31号,1916年7月;『新校本全集』14巻・校異篇,pp.21-22.)



 ↑この日の執筆担当者は、岩石鉱物には興味がないらしく、「縁結びの岩」「盆石石菓子」などと書いているだけですが、じっさいに行ってみれば、境内はそこらじゅう奇岩だらけで、地質マニアのためにあるお寺かと思うほどですw

 宮沢賢治は何も書き残していませんが、「石ッコ賢さ」が、この露岩の集積に興味を惹かれなかったとは思えないのです。






「石山寺は、伽藍山と呼ばれる小高い山の中にあり、その名のように境内には奇岩怪岩の数々が見られます。中でも天然記念物の珪灰石は有名です。ここの岩石は中・古生層の石灰岩やチャートと、それらが接触変成作用を受けてできた結晶質石灰岩(大理石)や珪岩で、変成鉱物として珪灰石ができたのです。

 
〔…〕石山寺付近の花崗岩の露出はわずかですが、〔…〕この地域の地下一帯には、花崗岩が分布していると考えてよいでしょう。この花崗岩の貫入は、中生代白亜紀末のころです。」
『滋賀県 地学のガイド(上)』,改訂版,2002,コロナ社,p.94.



 石山寺の見どころは、大理石と珪灰石の巨大な岩塊で、これらは白亜紀末に地下から貫入してきた花崗岩マグマの熱によって、石灰岩やチャートが接触変成を受けてできたものだそうです。

 秩父巡検↓での知識を応用しますと、チャートも石灰岩も、中・古生層の中に包みこまれたノジュール(混在岩体。ブロック)でしょう。秩父と違うのは、そこへさらに地下からマグマ(花崗岩)が貫入してきて、接触変成(熱変成)を及ぼしていることです。


∇ 参考記事⇒:【荒川の碧き流れに(21)】


 石山寺の大理石と珪灰石は、もともとは真っ白い巨岩で、江戸時代の松尾芭蕉も、



「石山の石より白し秋の風」



 という俳句を詠んでいます。これは石山寺ではなく加賀で詠んだ句だそうですが、石山寺の石は、白い物の代表だったわけです。ところが、現在では表面が風化で黒ずんでおり、天然記念物として削ったり磨いたりできないため、ただの鼠色の岩にしか見えません。

 そこで、私たちはまず、伽藍山の北側にある三田川の河床で、石山寺に続く岩脈の露頭を見てから石山寺に向かいたいと思います。河床でしじゅう水に洗われる環境が幸いして、こちらの露頭では、きれいな大理石と珪灰石を観察することができます。




国分団地内 
三田川の河床






「三田川を渡る所で橋の下に、川の水に洗われた白い見事な岩石が現れます。

 橋を渡って河原に降ります。足元の岩石は驚くほど白く、黒く細い縞模様が一面に入っています。これが大理石です。

 さらによく観察すると、黒の縞模様の間に、灰色の引き伸ばされたような部分がはさみ込まれているのがわかります。これが珪灰石という鉱物で、表面を磨くときれいな白色になります。

 
〔…〕石山寺のも同じ岩石ですが、残念なことに岩石全体の表面が汚れていて、色や表面の構造がよく見えません。〔…〕この団地内の場合は川底という条件が幸いして、よく表面を観察することができます。」
『滋賀県 地学のガイド(上)』,改訂版,2002,コロナ社,p.96.







国分団地内
三田川の河床(接写)



「大理石とは、石灰岩が花崗岩のような火成岩体の貫入による接触変成作用を受けてできた変成岩です。石灰岩の主成分は CaCO3 で白い岩石ですが、多くの場合泥質などが混じって、濃淡のある灰色をしているのが普通です。この灰色の石灰岩が接触変成作用を受けて大理石になりますが、泥質などの部分は黒い筋となります。この結果、黒い縞の入った大理石を形成します。

 
〔…〕珪灰石(CaSiO3)は、つぎの化学反応式で生成される変成鉱物です。

 CaCO3 + SiO2 → CaSio3 + CO2

     
〔…〕

 珪灰石は羽毛状に見え、レリーフのように凸になっているのがわかります。これは珪灰石が方解石
〔大理石を構成する鉱物。結晶炭酸カルシウム――ギトン注〕よりも硬く、浸食されにくいためです。珪灰石の周囲を観察してみると、きれいな白色の方解石の縁どりがあることもわかります。」
『滋賀県 地学のガイド(上)』,改訂版,2002,コロナ社,pp.96-97.



 上の化学反応式・左辺の珪酸(無水珪酸 SiO2)の供給源は、熱マグマ中の石英とも考えられるし、チャートの主成分である石英が熱変成を受けて反応したと考えることもできます。

 露頭では、黒い網状の縞のある大理石(結晶質石灰岩)の中に、白い方解石で包まれたクリーム色の珪灰石が、島のように浮かんで見えます。珪灰石の表面はケバだったようにでこぼこしています。「羽毛状」と言っても柔らかくはありません。大理石・方解石よりも硬いのです。


 【お願い】この露頭は、天然記念物に指定された岩体の産状が解る、たいへん貴重なものです。どうか、この場所に行かれた場合には、傷つけたり採取したりすることは慎んで、観察と撮影だけにとどめましょう!!


 というわけで↑、今回は地図等はあえて掲載しませんでしたw







幻住庵
から石山寺方面の展望
幻住庵は芭蕉が“奥の細道”の旅の後で4か月間
居住した庵で、『幻住庵の記』はすぐれた俳文
として有名。国分団地のそばにある。

正面の山が伽藍山。石山寺は、
左の峰の向う側にあります。








「石山寺の境内は、巨大な大理石と珪灰石がそびえています。
〔…〕

 手水の横の石段を登り切ると、正面に溶食を受けて凹凸になった大きな岩山があります。この岩石こそが石山の名の由来となった大理石です。中・古生層の石灰岩が接触変成作用を受けてできたもので、天然記念物になっています
〔…〕表面は黒ずんでいますが、凹凸が激しく、凸部は羽毛状に集合した珪灰石になっています。」
『滋賀県 地学のガイド(上)』,改訂版,2002,コロナ社,pp.97-98.




石山寺 
天然記念物「石山寺珪灰石」

岩全体は大理石で、その中に餅状の珪灰石が
はさみこまれているはずですが、全体に
黒ずんでいて、よくわかりません。

後ろに見えるのは「多宝塔」。






 「天然記念物」そのものは、いくら眺めていても真っ黒で、どこが珪灰石で、どこが大理石なのか、はっきりとはわかりません。

 それよりも、あなたの足もとの岩を見てください。やはり真っ黒ですが、“羽毛状”の凹凸で珪灰石を見分けることができます。




石山寺 
「天然記念物」前の露岩(接写)

上部のへりに、珪灰石の「羽毛状」の凹凸が見えます。






「多宝塔からこの先の月見亭までの地表面には、平行な層理がよく発達したチャートが露出しています。このチャートは、虎の縞模様にたとえられて虎岩と呼ばれ、瀬田川の銘石として有名です。」

『滋賀県 地学のガイド(上)』,改訂版,p.98.




石山寺 
チャート露頭“虎岩”(接写)

「多宝塔」と「月見亭」の間の地面に出ている岩です。
ここも、土汚れと参拝客に踏まれているのとで劣化が
激しいですが、かろうじて“虎”の縞模様が見えます。





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