ギトンの◇ギャるリ★ど☆タブろ◆

ハームキヤ(12)




ランキングヘ




花巻市内の『春と修羅』関係箇所



「ハームキヤ」とは、賢治語wで、花巻のことです。









岩手軽便鉄道と“猫の事務所”








 JR花巻駅の近くに、毎正時になると『銀河鉄道の夜』のキャラが跳び出す「からくり時計」があります。




「からくり時計」 
岩手軽便鉄道・花巻駅跡

左から右回りに、
インディアン、銀河鉄道の汽車、鳥捕り、双子の星



 ここは、岩手軽便鉄道(現・JR釜石線)花巻駅があった場所です。

 童話の“銀河鉄道”は、岩手軽便鉄道をファンタジー化したものだと言われています。


∇ 関連記事⇒:【ハームキヤ(9)】







「からくり時計」のジョバンニとカムパネルラ 
岩手軽便鉄道・花巻駅跡

いきなり出て来た人形を、はじめて見ても
どちらがジョバンニで、どちらが
カムパネルラかわかるのですから、
この時計はよくできています。



「突然とうもろこしがなくなって巨きな黒い野原がいっぱいにひらけました。新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてから湧きそのまっ黒な野原のなかを一人のインデアンが白い鳥の羽根を頭につけたくさんの石を腕と胸にかざり小さな弓に矢を番
(つが)えて一目散に汽車を追って来るのでした。

 『あら、インデアンですよ。インデアンですよ。ごらんなさい。』

 黒服の青年も眼をさましました。ジョバンニもカムパネルラも立ちあがりました。

 『走って来るわ、あら、走って来るわ。追いかけているんでしょう。』

 『いいえ、汽車を追ってるんじゃないんですよ。猟をするか踊るかしてるんですよ。』青年はいまどこに居るか忘れたという風にポケットに手を入れて立ちながら云いました。

 まったくインデアンは半分は踊っているようでした。第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ本気にもなれそうでした。にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ倒れるようになりインデアンはぴたっと立ちどまってすばやく弓を空にひきました。そこから一羽の鶴がふらふらと落ちて来てまた走り出したインデアンの大きくひろげた両手に落ちこみました。インデアンはうれしそうに立ってわらいました。そしてその鶴をもってこっちを見ている影ももうどんどん小さく遠くなり電しんばしらの碍子がきらっきらっと続いて二つばかり光ってまたとうもろこしの林になってしまいました。こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖の上を走っていてその谷の底には川がやっぱり幅ひろく明るく流れていたのです。
〔…〕

『銀河鉄道の夜』より。
(原文は旧仮名遣い) 



「鳥捕りは、何か大へんあわてた風で、

 『そうそう、ここで降りなけぁ。』と云いながら、立って荷物をとったと思うと、もう見えなくなっていました。

 『どこへ行ったんだろう。』

 二人は顔を見合せましたら、燈台守は、にやにや笑って、少し伸びあがるようにしながら、二人の横の窓の外をのぞきました。二人もそっちを見ましたら、たったいまの鳥捕りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光を出す、いちめんのかわらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手をひろげて、じっとそらを見ていたのです。

 『あすこへ行ってる。ずいぶん奇体だねえ。きっとまた鳥をつかまえるとこだねえ。汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといいな。』と云った途端、がらんとした桔梗いろの空から、さっき見たような鷺が、まるで雪の降るように、ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞いおりて来ました。するとあの鳥捕りは、すっかり注文通りだというようにほくほくして、両足をかっきり六十度に開いて立って、鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押えて、布の袋の中に入れるのでした。すると鷺は、蛍のように、袋の中でしばらく、青くぺかぺか光ったり消えたりしていましたが、おしまいとうとう、みんなぼんやり白くなって、眼をつぶるのでした。ところが、つかまえられる鳥よりは、つかまえられないで無事に天の川の砂の上に降りるものの方が多かったのです。それは見ていると、足が砂へつくや否や、まるで雪の融けるように、縮まって扁
(ひら)べったくなって、間もなく熔鉱炉から出た銅の汁のように、砂や砂利の上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についているのでしたが、それも二三度明るくなったり暗くなったりしているうちに、もうすっかりまわりと同じいろになってしまうのでした。

 鳥捕りは二十疋ばかり、袋に入れてしまうと、急に両手をあげて、兵隊が鉄砲弾にあたって、死ぬときのような形をしました。と思ったら、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、却って、

 『ああせいせいした。どうもからだに恰度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。』というききおぼえのある声が、ジョバンニの隣となりにしました。見ると鳥捕りは、もうそこでとって来た鷺を、きちんとそろえて、一つずつ重ね直しているのでした。
〔…〕

『銀河鉄道の夜』より。
(原文は旧仮名遣い)



「『あれきっと双子のお星さまのお宮だよ。』男の子がいきなり窓の外をさして叫びました。

 右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。

 『双子のお星さまのお宮って何だい。』

 『あたし前になんべんもお母さんから聴いたわ。ちゃんと小さな水晶のお宮で二つならんでいるからきっとそうだわ。』

 『はなしてごらん。双子のお星さまが何したっての。』

 『ぼくも知ってらい。双子のお星さまが野原へ遊びにでてからすと喧嘩したんだろう。』

 『そうじゃないわよ。あのね、天の川の岸にね、おっかさんお話なすったわ、……』

 『それから彗星
(ほうきぼし)がギーギーフーギーギーフーて云って来たねえ。』

 『いやだわたあちゃんそうじゃないわよ。それはべつの方だわ。』

 『するとあすこにいま笛を吹いて居るんだろうか。』

 『いま海へ行ってらあ。』

 『いけないわよ。もう海からあがっていらっしゃったのよ。』

 『そうそう。ぼく知ってらあ、ぼくおはなししよう。』
〔…〕

『銀河鉄道の夜』より。
(原文は旧仮名遣い) 










地図
(岩手軽便鉄道)

現在の釜石線は、花巻駅からいったん北へ
向かってから、東北本線と分かれますが、
軽便鉄道は花巻駅の南側を、U字形にカーブして
めぐっていました。






岩手軽便鉄道「鳥谷ヶ崎」停車場・跡

2台の自動車の間に、停車場跡の標柱があります。

この停車場は、『稗貫郡役所』↓の前にありました。






稗貫郡役所・跡 
現・岩手県花巻地区合同庁舎



      ※
 
 かぜのうつろのぼやけた黄いろ
 かれ草とはりがね、 郡役所
 ひるのつめたいうつろのなかに
 あめそゝぎ出でひのきはみだるる。

 (まことこの時心象のそらの計器は
  十二気圧をしめしたり。)

      ※


『冬のスケッチ』43:2.



       四時


 時しも岩手軽鉄の、    待合室の古時計、
 つまづきながら四時うてば、助役たばこを吸ひやめぬ。

 時しも赭きひのきより、  農学生ら奔せいでて、
 雪の紳士のはなづらに、  雪のつぶてをなげにけり。

 時しも土手のかなたなる、 郡役所には議員たち、
 視察の件を可決して、   はたはたと手をうちにけり。

 時しも老いし小使は、   豚にえさかふバケツして、
 農学校の窓下を、     足なづみつゝ過ぎしなれ。

『文語詩稿一百篇』「四時」〔定稿〕



 ↑「待合室」は、鳥谷ヶ崎停車場の待合室でしょう。「農学生」が出て来たのは、郡役所のすぐ隣にあった賢治の勤め先「稗貫農学校」から。「雪の紳士」は雪だるま。


∇ 参考写真(稗貫農学校)⇒:【ハームキヤ(1)】


∇ 参考写真(軽便鉄道軌道跡)⇒:【ハームキヤ(3)】










旧・稗貫郡役所 
花巻市大迫町
『早池峰(はやちね)と賢治の展示館』

「稗貫郡役所」の建物は、大迫町に移設されて
資料館として使われており、現在も見ることが
できます。



 ↑洋風木造建築のハイカラな建物で、『小岩井農場』の本部建物と構造や装飾が似ています。

 『稗貫郡役所』は、賢治童話『猫の事務所』のモデルにもなったので、『展示館』には、“宮沢賢治と早池峰”関係の展示のほか、『猫の事務所』の登場人物(登場猫)の人形も置いてあります:





旧・稗貫郡役所
(内部)
大迫町『早池峰と賢治の展示館』




      猫の事務所

        ……ある小さな官衙に関する幻想……


 軽便鉄道の停車場のちかくに、猫の第六事務所がありました。ここは主に、猫の歴史と地理をしらべるところでした。

 書記はみな、短い黒の繻子
(しゅす)の服を着て、それに大へんみんなに尊敬されましたから、何かの都合で書記をやめるものがあると、そこらの若い猫は、どれもどれも、みんなそのあとへ入りたがつてばたばたしました。

 けれども、この事務所の書記の数はいつもただ四人ときまつてゐましたから、その沢山の中で一番字がうまく詩の読めるものが、一人やつとえらばれるだけでした。

 事務長は大きな黒猫で、少しもうろくしてはゐましたが、眼などは中に銅線が幾重も張つてあるかのやうに、じつに立派にできてゐました。
〔…〕

宮沢賢治『猫の事務所』より。



 「軽便鉄道の停車場のちかくに」とありますから、「鳥谷ヶ崎」停車場の前にあった稗貫郡役所がモデルと思われるのです。


∇ 本記事はこちら⇒:
⦅あ〜いえばこーゆー記⦆【吉本隆明】の宮沢賢治論(4)


∇ 本記事はこちら⇒:
⦅あ〜いえばこーゆー記⦆【吉本隆明】の宮沢賢治論(6)









岩手軽便鉄道・軌道跡 
「瀬川鉄橋」付近
遠くの四角いビルは花巻警察署。その向こうが⦅イギリス海岸⦆。

左の下り坂が軌道跡。坂を下りきったところに
瀬川が流れており、軽便鉄道は、鉄橋で川を
渡っていました。現在では、瀬川の流路は
改修工事で変更されています。





 樺の向ふで日はけむる
 つめたい露でレールはすべる
 靴革の料理のためにレールはすべる
 朝のレールを栗鼠は横切る
 横切るとしてたちどまる

 尾は der Herbst

  日はまつしろにけむりだし

 栗鼠は走りだす

  水そばの苹果緑
(アツプルグリン)と石竹(ピンク)

     
〔…〕

   日は白金をくすぼらし
   一れつ黒い杉の槍

 その早池峰と薬師岳との雲環
(うんくわん)
 古い壁画のきららから
 再生してきて浮きだしたのだ
〔…〕

『春と修羅』「栗鼠と色鉛筆」より。



∇ 本記事はこちら⇒:
〜ゆらぐ蜉蝣文字〜【57】栗鼠と色鉛筆








∇ ひとつ前の記事⇒:ハームキヤ(11)

∇ 次の記事⇒:ハームキヤ(13)




.

トピックス

ブログランキング

人気のブログテーマ記事

テーマ:反抗期ってあった?