サテュリコン (29)―【レビュー1】




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【ここまでのあらすじ(1)】
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132節には、『サテュリコン』自身についての詩も載せられています:

「なぜカトー☆ばりの先生たちは眉をしかめて断罪するのか
このみずみずしい無邪気な作物(さくぶつ)を?
私の純な語りがもたらすのは、元気いっぱいの優しさ;
私の筆は能力ある限り、人々のなすことを書いているだけなのだ。
ウェヌス(ビーナス)の悦びを知らぬ者がいるだろうか?
誰が寝床の温もりの中で、自分の身体をからかいたくならないだろうか?
偉大なエピクロス※は生きた真実を教えた;
生を愛せよ、楽しめよ!残りはただの燃えさしさ。」

「人間たちの馬鹿げた偏見よりも不誠実なものは無く、偏屈な道徳よりも馬鹿げたものは無い。」(132節)

☆カトー:ここでは前1世紀ローマの政治家・哲学者「小カトー」(Marcus Porcius Cato Uticensis, 95BC--46BC)を指す。ストア哲学派の清廉潔白な人物として知られ、遠征軍を指揮した際には厳しい軍律を課し、財務官当時は、前財務官などを公金横領の廉で次々に告発し、綱紀を粛正した。元老院に拠って、カエサル(シーザー)と対立した。カエサルを暗殺したブルートゥスは娘婿。
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※エピクロス(Epikouros, 341BC--270BC)ギリシャの哲学者。人生の目的は幸福(快)を追求することにあるとした。エピクロス派の哲学は、禁欲主義を主張するストア派と対立するが、エピクロスの主張した「快」とは、煩わしさから解放された状態(アタラクシア [平安])であり、エピクロス自身は、肉体的快楽は苦痛を伴うのでむしろ「不快」だと述べている。
ウィキペディア
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さて、この小説『サテュリコン』は、ネロ帝治下のローマ帝国を舞台に、遍歴学生エンコルピウスと、彼の奴隷に扮するギトン少年が、他の男を道連れにしたり、有力者や女性をたぶらかしながら、詐欺、こそ泥を繰り返して逃げ延びて行く「悪漢小説」ないし悪童小説です。
▼最初から読んでみたいという方は、こちらから⇒サテュリコン(序1)
サテュリコン(1)

エンコルピウスとギトン少年の関係は、表向きは主人と忠実な奴隷ですが、ときには仲の良いラブラブのゲイカップル、ときには醒めた悪仲間同士、そしてときにはケンカもします。なにしろ、2人とも男にも女にもモテるので、次々に浮気相手やら恋敵きやら現れては消え…息つくひまもありません。また、そうやって男女を問わずに取り入っていかなければ、二人の生活を確保できないのも事実なのです。
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『サテュリコン』のテキスト(原文)は、大部分が散逸してしまっていて、今日に伝わっているものは、ごく一部の、しかもバラバラになった多数の断片のみなのです。したがって、物語の最初からの筋は知ることができませんし、結末も全く分かりません。エンコルピウスとギトンが、どういう行きがかりでカップルになったのかも、われわれには全く分からないのです。
しかし、現存の断片と断片の間をつなぐストーリーに関しては、過去数百年の間に、幾人かの読者ファン(主な人だけで3名)が、「補充」ないし「偽作」と云われる修復テキストを作っています。著者ペトロニウスの書いたものではなく、ずっと後世の人がペトロニウスに似せて書いたのですから、「偽作」には違いないのですが、残存断片を非常によく研究して、矛盾のないストーリーを考えて繋いでいる「補充」もあります。
そこで、ギトン(作中人物の少年と紛らわしいので、このサイトの管理人のニックネームは大きな文字で、作中人物は小文字で表しています。)は、17世紀フランス人の「偽作」である「ノドー断片」を、かなり参考にしながら、この粗筋・解説を書いているのです。
わが国で、『サテュリコン』が、本来の小説としてではなく、古代風俗史料として、あるいは単なる少年ポルノとして鑑賞されている現状については、すでに何度か指摘してきました。このような不遇な扱いを受けている最大の原因は、これまでに出版された日本語訳が、いずれも真面目な学者によるものであったために、「偽作」などは排除して、正統の断片だけを忠実に翻訳してきた結果だと思うのです。残っている断片だけを読んだのでは、(比較的まとまって残っている「トリマルキオの宴会」は別として)ストーリーがほとんど繋がらず、一般の読者が読んでも意味がわからないのです。しかし、繰り返し何度も読んでいると、断片の間を繋ぐストーリーが次第に見えてきて、「ノドー補充」など一部の「偽作」は、必ずしも原作のプロットや風格を損なうものではないことも、分かってきます。
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